時事・社会

新型コロナで見えた保健所の問題点、そして改善策

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★この記事で分かること★

  • 新型コロナで見えた保健所の問題点
  • 保健所の事務職と医師・保健師など専門職との関係性
  • 次のパンデミックに備えて保健所が取り組むべきこと

皆さん、こんにちは!けんた@ロスジェネ青春マガジン(@lost_gene_mag)です!

新型コロナは、5月8日から、感染症法上の位置づけが「5類」に変わりました。

新型コロナ対策に向き合ってきたこの3年間。

各自治体の保健所は、国に示された方針に基づきつつ、各現場がそれぞれに創意工夫して、住民に寄り添いながらコロナ対策を進めてきたところです。

さて、新型コロナを通じて、この3年間、「保健所」というものにスポットライトが当たりました。

保健所は、医療・保健にかかわる専門職が数多く、今回の新型コロナでも大活躍しましたが、一方で、行政の機関としては非常に脆弱で、課題の多い組織です。

本日は、本業で保健所関係のコンサルタント・アドバイザリー業務にかかわっていた私が、今回の新型コロナを通じてわかった「保健所の問題点と改善策」について、主に行政組織論的な視点から、お話ししようと思います。

なお、今回の記事は、あくまで保健所という組織が、今回のコロナ禍を機に、より強くなることを願って執筆しているものであり、特定の組織や個人について論評する意図はありません。

あくまで、一般論としての保健所組織文化について考察し、改善策を考えているものですので、誤解のないようにお願いいたします。

それでは、いってみましょう!

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そもそも保健所って何?

保健所は、公共の健康と衛生を維持するための施設や機関です。

主な目的は、疾病の予防と管理、健康教育、衛生状態の維持と向上、そして地域社会全体の健康と福祉の促進です。

保健所は、一義的には都道府県レベルで設置されていますが、政令指定都市や中核市、保健所特例市では、市が設置していることもあります。

保健所は、地域の住民に対して、健康相談や検診、予防接種、感染症の管理、疫学調査、衛生指導、食品の安全確保などのサービスを提供します。

とりわけ、今回の新型コロナで注目を浴びた、保健所の重要な役割の一つは、疾病の予防と管理です。

保健所は、地域の住民に対して予防接種や健康診断を提供し、感染症の早期発見と制御に取り組みます。疫学調査を通じて、感染症の発生源や拡大経路を特定し、迅速な対策を講じることも重要な任務です。

このほか、保健所は健康教育の普及にも取り組んでいます。

地域の住民に対して、栄養、運動、生活習慣などの健康に関する情報を提供し、予防的な取り組みを促します。

特に、子どもや高齢者、妊産婦などの特定の人々に対して、適切な健康管理とケアを提供することが求められます。

また、地域の衛生状態の維持と向上も、保健所の大事な仕事です。飲料水や食品の衛生管理、公衆衛生施設の検査、衛生教育の普及など、地域全体の衛生基準を確保するための監督や指導も行っています。

このように、保健所は地域における医療・保健・公衆衛生行政の核として、さまざまな面で、私たちの健康と衛生的なくらしを支えてくれているのです。

コロナ禍における保健所の役割

このコロナ禍において、保健所は、新型コロナ対策の中心として、さまざまな役割を果たしてきました。

そこで、コロナ禍において、保健所がどのような仕事をしていたのか、まず見ていこうと思います。

発生届の受理

新型コロナは、感染症法の規定に基づき、医師が陽性を診断すると、発生届を管轄の保健所へ提出することになります。

発生届には、患者の住所・氏名・症状など、さまざまな情報が書かれており、これらの情報を診断した医療機関から引き継ぐことで、保健所における新型コロナ対策業務がスタートするのです。

さて、この発生届、当初は患者一人一人に対して提出が必要となっていました。

従って、「感染の波」のピーク時などで患者が増加する局面になると、大量の発生届が保健所に送付され、保健所はこの処理に追われてしまいます。

発生届の提出は、当初は医療機関からファクスを送付するという形で行われていましたが、一方でこれらの事務処理を電子化する「HER-SYS」(ハーシス)というシステムは、実はコロナ禍初期のころから導入されていました。

しかし、このシステムの使い勝手が非常に悪く、結果として多くの保健所は従来どおりのファクス送付を許容していました。

一方、このファクスで送られる発生届の山によって保健所が紙まみれになっている様子がメディアなどで報じられると、デジタル界隈から

未だにファクスでやりとりしている非効率な業界
保健所が疲弊するのは自分たちの仕事の仕方が悪いから

という、現場で奮闘する職員に対してかけるにはあまりにも辛辣な声が寄せられるようになります。

一方、こうした声を意識してかせずかは分かりませんが、少しずつHER-SYSのシステムも洗練されてきて、多くの医療機関が、システムを利用した発生届の提出に対応してくれるようになりました。

とはいえ、事務が効率的になっても、感染者数が減るわけではなく、患者発生を認知した以降の事務量には大きな影響がありません。

一方で、新型コロナの医療上のリスクがそれほど大きくないことなども少しずつ明らかになっていきます。

発生届の全数提出は、保健所の業務量が著しく増加する一方で、業務量の割に得られる効用が少ないという話になり、2022年9月に、発生届の全数届出が見直されます

これにより、発生届の対象者が従者リスクの高い者に絞り込まれることで、ようやく保健所の業務量が大きく低減するに至るのでした。

積極的疫学調査

保健所は、発生届を受理すると、感染症法に基づいて、調査を行います。

新型コロナ対策の初期フェーズでは、主に陽性者本人に対する症状や行動歴などの聞き取り調査と、行動歴の中で明らかになった滞留場所などの調査(施設調査)を実施し、感染ルートや濃厚接触者の特定を行っていました。

これらは、感染症対策業界で「積極的疫学調査」と呼ばれています。

この行動歴の聞き取りが、1人あたり10〜20分程度はかかってしまいますので、患者数が増えると、単純に「患者数×10〜20分」の時間を、この聞き取り調査に要してしまう上、施設調査までを含めると、かなりの手間になってしまっていました。

幾度かにわたる「波」の中で、こういった積極的疫学調査をまともにこなしていては、とても業務が回らないくらいに患者数が激増します。

しかし、多くの保健所は、こうした状況に対して、「制度設計に無理がある」などの声を国に上げることもなく、ただ黙々と、膨大な業務を、こなしつづけていました

一方、国の方針に律儀に従った結果、多くの保健所が疲弊し、そういったニュースが報じられる中で、最終的に、国は説教的疫学調査の重点化(調査をハイリスク患者のみに絞る)という方針を打ち出すに至るのです。

入院調整・療養患者への対応

新型コロナは、感染症法に基づく「2類相当」の対応が求められていたため、陽性患者は原則として入院することとされていました。

しかしながら、現実問題として、入院する病床は日々発生する患者の数に比してあまりに少なく、全員を入院させることは、最初期の「第1波」の時点で既に不可能になっていました。

そこで、保健所では、「誰をいつ入院させるか」を、病床の空き具合や患者の症状などを勘案しながら判断する業務が発生していました。

これが「入院調整」と呼ばれるものです。

「体調が悪いのに入院できないのは保健所のせい」

などというタチの悪い報道がなされ、保健所には住民からプレッシャーがかけられる中、いかに全体最適を求めて入院調整するか…非常に、シビアな業務を行っていたのです。

一方で、現実的に入院できなかった患者については、宿泊療養施設…いわゆる「コロナ療養ホテル」での療養措置や、あるいは往診制度を整えながらの自宅療養などをお願いしていました。

自宅療養者は、基本的に外出ができないことになっていましたが、その間は日用品の買い出しなども行ってはいけないので、療養期間中の食料品や日用品などをお届けする取組なども、各自治体や各保健所において行われていたところです。

保健所という組織の「7つの弱点」

こういった機能を持つ保健所は、新型コロナ対策において、数多くの役割を果たしてきました。

しかし一方で、保健所は平時において、それほど高い注目を受けているわけではない組織です。

それゆえ、こういった非常時を乗り切るには体制が脆弱で、新型コロナという国難に十分に対応しきれず、現場はかなり疲弊していました。

特に、新型コロナの陽性患者が増加する、いわゆる「波」のピークには、標準的なコロナ対策業務を1人1人に施すことが困難な業務量に達し、各保健所はパンクしていました。

こういった事態それ自体については、報道なども多々されていましたので、比較的知られていたかと思います。

でも一方で、「そういった事態はなぜ起こったのか」「どうすれば解決できたのか」は、必ずしも明らかになっていたわけではありません。

そこで、今回のコロナ対策の中で見えて、まずは保健所の弱点について、7点、お示ししていこうと思います。

【保健所の弱点①】予算や人事など、組織内調整スキルが低い

今回の新型コロナでは、「波」の都度に増加する患者の増や、幾度にもわたる制度変更への対応などで、人員不足に陥り、体制強化の必要性が叫ばれました。

また、HER-SYSやワクチンなど、国によって始められる新たな事業・取組への対応など、さまざまな「新たな仕事」が生じ、予算の増額が必要になる局面も多かったです。

一方、保健所は、まちの小さなクリニックなどとは違い、自治体の中にある、組織の一部です。

従って、こういった、人員体制の強化や、追加の予算措置については、「欲しい!」といったらすぐに実現するわけではありません

本庁人事部門や財政部門との協議・調整を経て、そして予算については地方議会の議決を得て、初めて実現が可能となります。

しかしながら、保健所は、今回のような有事が起こる前は、基本的に人事・予算面では特段の配慮が必要というわけではありませんでした。

従って、人事も予算も「例年どおり」のルーティンでされることが多いです。

従って、今回のコロナのような「有事」において、どのようにして体制強化や予算を獲得していくかのノウハウが、多くの保健所において、積みあがっていませんでした。

なので、保健所における体制強化や予算の必要性が、説得力をもって総務部門に通ることはありません

この結果、保健所における必要な体制や予算が充足しない状況が、長きにわたって継続してしまったのです。

【保健所の弱点②】事務職のスペックが総じて低い

先ほどの話とも関係しますが、保健所は平時であれば、それほど大きな行政課題があるとは認められない組織です。

そのため、前述のような体制強化や予算の獲得に向けての調整を行う、保健所の事務職については、組織内のエース級があてがわれることは、ほぼありませんでした。

逆に、多くの自治体において、組織内のエース級職員は、人事部門や財政部門といった、こういった経営資源の差配を担える部門に配置されています。

このため、保健所の事務職員が、人事や予算の獲得に向けて動いても、組織内エース級の職員に

そんな余力は組織内にありません
他部署も忙しいから、応援は出せません

などとやり込められて、結果として負けてしまう

そんな事態もまた、さまざまな自治体の総務部門と保健所との間で、よく見られていました。

【保健所の弱点③】専門職が専門的な仕事しかできない

保健所は、事務職のほか、医師、保健師、看護師、獣医など、さまざまな専門職が在籍しています。

こういった専門職の方々は、それぞれの専門のフィールドにおいては、類まれない強みを発揮し、そういった専門性が発揮されたからこそ、コロナ禍が乗り切れたものだと思っています。

しかし一方で、これら専門職は、自らの専門性の高さに誇りを持っているがゆえか、専門外の仕事にかかわろうとしない傾向があります。

この結果、専門職が、自らの専門性にこだわって、取り組むべき業務に「線」を引いてしまう事案が続出。

特に、患者が増加した時期にあっても、「専門外の業務」を理由に応援体制の構築に協力しない専門職の発生は、保健所内を疲弊させる要因にもなりました。

また、体制強化を求めて人事部門と協議した際、

でも、保健所内でも手伝わない人がいるんでしょ?

と、交渉を不利にする要素として取り上げられたりもするなど、大変罪深いものであったのです。

【保健所の弱点④】専門職が事務職を見下している

先ほどの「専門職の専門性」と関係する話でもあるのですが…

保健所の専門職は、就職するまでの間に専門的な教育を受け、就職後も専門業務のフィールドで活躍してきた人たちばかりです。

ただ、そうした専門性にプライドがあるためか、専門職は、保健所内にいる事務職員を、

何の専門性も持たない、ただの人

として見下す傾向にあります。

これは、さまざまな保健所で広く見られた現象ですので、「特定の組織の特定の人だけの話」ではなく、保健所全般に広く通じる一般的な傾向とみて良いでしょう。

しかし、この傾向は非常にまずく、

  • 組織内にカースト制度のようなヒエラルキーが生じてしまい、組織内の円滑な意見交換に支障が出る
  • 事務職員が専門職に遠慮して意見が言えなくなる
  • 事務職員が不遇の環境に置かれることで、エース級の事務職員が配置されづらくなり、体制強化や予算獲得が難しくなる

といった問題を生じさせます。

なお、「専門職が事務職を見下す」という傾向は、コロナ禍以前から保健所において見られた組織文化であり、それゆえ、事務職員にとって、保健所は不人気職場とされています。

この傾向は、コロナ禍でより一層強まったと言わざるを得ないでしょう。

【保健所の弱点⑤】マネジメント能力の低い管理職が多い

保健所の専門職員は、医師にせよ保健師・看護師にせよ、その多くが「人と人とが、1対1で接する」ことから始まる仕事を中心にしています。

従って、

仕事の中で、「組織で仕事をする」という経験をする機会が、他の職種に比べると明らかに少ない

という状況にあります。

ここにいう「組織で仕事をする」の意味は、単に複数の職員から成るグループの中で仕事をすることはもちろんのこと、組織で仕事をする上で欠かせない「人事」「予算」を、総務部門と協議しながら、適切に管理するスキルも含まれます。

他の仕事を経験して、視野が広がり、こういったスキルが身についていれば良いのですが、多くの専門職は、「1対1」の仕事のキャリアばかりを積み上げていきながら、役職が上がり、やがてマネージャーに就いていきます

この結果、保健所にいる専門職の多くは、「組織で仕事をする」という経験をほぼしないまま、組織のマネージャーとなってしまうのです。

こういったマネージャーは、当然にマネジメント能力が低いです。

平時であればそれでも何とかなってきたのですが、今回のような国難において、仕事を「個人の1対1のスキル」で回すことは、どう考えても不可能

組織をマネジメントして、チームで効率的に仕事を進めるような体制を作ることが、こういった局面のマネージャーに求められるのですが、それができるマネージャーは、全国的にどの保健所にも、ほとんどいませんでした。

何なら、マネージャーでありながら、「自分は専門職だから」とマネジメントを放棄し、目先のケースワークばかりに取り組んで、組織が疲弊していくのを見て見ぬふりするような事例も、いくつか目にしたほどです。

【保健所の弱点⑥】総じて人間関係が悪い

ここまで、保健所内の組織文化や職員に関する問題提起をいくつかしてきましたが、実はこういった課題について、多くの保健所職員は、どのような立場であっても、「なんとなく」気づいています。

そして、その気づきゆえに、事務職員は専門職に、専門職は事務職員に、大きな不満を持っています。

また、専門職同士でも、自分の考え方と異なる仕事の仕方をする職員に対して、批判的にものを見たり、あるいはそれが口に出たりして、ギスギスした空気が生まれるのです。

このほか、保健所は比較的女性が多い職場であるため、職員の産休・育休取得や、その穴埋めなどがどうしても発生してしまい、このことが職員の中で不公平感を生み出してしまうこともあります。

そして、こういったさまざまな不満が渦巻いているがゆえに、保健所内の人間関係というのは、総じて悪くなりがち

行政組織内で、ここまでギスギスした人間関係が顕在化しているセクションは、非常に珍しいと思います。

【保健所の弱点⑦】改善を考え、提案する組織文化がない

医療・保健行政については、その多くが国(厚生労働省)の通知などに基づいて行われています。

各保健所の専門職は、その専門性を生かしながら、こういった国の通知などを参照して、医療・保健行政を推進しています。

保健所は、こういった仕事の進め方が基本となっているので、国の通知どおりに仕事をするスキルは非常に高いです。

しかし一方で、国の通知が現場の実情にそぐわなかったりした場合、そうした状況に対して、改善を提案するという発想がありません

通常の政策分野であれば、国の制度設計に問題があれば、

  • 知事会・市長会を通じた政策提言
  • 地元選出国会議員を通じたロビー活動
  • 発信力ある首長によるメッセージ発信

といった手法を活用し、国に改善を働きかけることができるのですが、これまで現場一辺倒だった保健所には、こうした、「国に改善を働きかける取組」のノウハウは、ほぼ積み上がっていないのです。

せいぜい、国のオンライン会議のチャットで不平不満を書き連ねることが関の山。

でもこれでは、国で制度設計に携わる官僚には

公式ルートを使うことなく、チャットで不平不満をぶちまけるとは、なんというマナー知らずな!

という評価にしかなりません。

なお、こういったノウハウは、自治体の企画部門や秘書部門、広報部門に蓄積があったりするので、そういった部門と保健所が連携できていればいいのですが、ここまで述べてきた

  • 保健所の事務職員のスペック低い問題
  • 専門職が事務職を見下す問題
  • 保健所管理職のマネジメント能力が低い問題

などがここでも効いてきて、そういった本部の事務的なノウハウが保健所内で活用されることは、ほとんどありませんでした。

けんた
けんた
もし、全国の保健所に、「国に政策提言をする」「現状の解決に向けて、ロビー活動を行う」という文化があれば、積極的疫学調査の重点化も、全数把握の見直しも、もっと早くできたんじゃないかな…と、今でも思っています。

次のパンデミックに備え…保健所はどうすべきか

ここまで、コロナ禍で見えてきた保健所の体制について、主に人事・組織論的な視点で、かなり批判的に論じてきました

保健所は、閉ざされた世界でありましたので、私のような外部の人間が、コンサル的目線で運営にかかわることも、これまではほとんどなく、それゆえに組織文化が完全にガラパゴス化してしまっています。

でも、保健所の体制について批判的に論じているだけでは、国のオンライン会議のチャットで不平不満を書き連ねている保健所職員と変わりません。

では、具体的にどうすれば良いのか。

次のパンデミックが来たとき、同じような過ちを繰り返していては、我々はあれだけの社会的コストを投じて対峙した新型コロナから、何一つ学びを得られなかったことになってしまいます。

そこで、一連の課題が解決に向かう、いくつかの改善策を考えてみました。

【改善策①】専門職も内部管理部門の経験を

今回の一連の問題は、「専門職が自らの専門性の中にとじこもっていたこと」に起因するものが、相当程度強く見られました。

もちろん、専門職はその専門性を求められて保健所で働いていますので、専門性を活かした仕事が一義的に求められるのは、言うまでもありません。

でも、今回のように、あまりにも対処すべき課題が大きくなりすぎると、対処方針は、「個人の専門性」に依拠することはできず、それに代わって「組織的な専門性」を作り出す必要があります。

この「組織的な専門性」を作るためには、特定の行政分野の専門性だけでは足りません。

  • 組織的な仕事の仕方
  • 役所の経営資源の引き出し方
  • 人の動かし方
  • 地方自治法など「公務員」としての基礎知識
  • そのほか…

こういったものを「土台」として持っておく必要があるのです。

では、こういった「組織的な専門性」を引き出す「土台」や「スキル」は、どうやれば身につくか

答えは簡単、

専門職も、内部管理部門で組織的な仕事を経験する

役所内の内部管理部門にいる事務職員は、総務や人事、企画や財政、広報などの仕事を経験することにより、いわばOJTの形で、こうしたスキルを身につけています。

保健所の専門職たちも、1〜2年でいいので、いわば研修的に、こういった内部管理系の仕事を経験しておくべきです。

そのことで、「自らの専門性を組織的に発揮」できるようにするためのスキルを身につける…あるいは身につくまで至らずとも、「どのような物事の進め方をすれば、組織的な仕事ができるか」を目の当たりにすることで、学ぶことができます。

また、その経験は、将来管理職になったときの、組織マネジメントや労務管理のスキルとなって効いてきます

なお、配置先としては、人事・行政管理・企画系のセクションのほか、もし部局ごとに総務課を置いているような組織であれば、医療・保健部門や福祉部門の総務課が良いでしょう。

けいこ
けいこ
こういった人事交流を行うことで、専門職と事務職員の相互理解が進むという副次的効果も期待できますね。

【改善策②】保健所に事務職エースの配置を

一連の問題は、保健所の専門職に「組織として仕事をするスキルがない」という点だけでなく、自治体本部の総務部門が、保健所という現場を軽視していた点も大きな課題です。

保健所は、福祉部門と並んで、住民の命に直結する、非常に大事なセクションですが、果たしてどれだけの自治体が、保健所に対してそのような評価をしていたか。

おそらく「人も予算も例年どおりで回ってくれる」程度の甘い認識でいたのではないでしょうか。

何なら、行革の対象として、予算や職員削減の対象としていたりはしなかったでしょうか。

その結果、保健所は特にコロナ初期〜中期において、直面する行政課題に比して脆弱な予算と人員体制しか用意されず、現場の疲弊に繋がってしまったのです。

でも、もし保健所内に、人事や予算を知り尽くしたエース職員がいることが当たり前だったら…

おそらく、本部との調整は、もう少しスムーズに進み、体制強化も円滑に行ったのではないかと思われます。

なお、一部の自治体において、保健所にエース級職員が配置されていた事例では、当該職員が現場と本部とのハブになって、部局総務課や人事・財政部門との調整がうまくいったような話もあります。

コロナ禍における保健所の課題については「疲弊する保健所」のようなテーマで報じられることが多かったため、こういった話はあまり知られていませんが、このような好事例も積極的に横展開されると良いなあ、と思います。

【改善策③】保健師の人数は少し多めに確保を

今回のコロナ禍では「保健所に、保健師の増員を!」という声が、非常に強く上がり、2021〜2022年において総務省がとりまとめた地方財政対策においても、それを踏まえた考え方が示されています。

今回のコロナ禍では、保健所の専門職の中でも、特に保健師の役割が大きくクローズアップされました。

この保健師こそが、新型コロナ以外も含め、保健所行政を質の高いものにしていく上でのキーパーソンとなりますが、やはり行革の影響などもあって、その人数は絞り込まれる傾向にありました。

しかし、今回のコロナ禍のような感染症に関する緊急事態において、保健師の役割は非常に大きいですし、また現実問題として女性が多い職種ということもあって、産休・育休による一時的な戦線離脱の影響を強く受ける特徴もあります。

自治体の人事部門・行政管理部門においては、少し勇気の要る判断かもしれませんが、そういった「不測の事態」や「産休・育休への対応」という視点も持ちながら、保健師を少し多めに確保しておくべきと考えます。

そして、少し多めに確保することで、先述の「専門職の内部管理部門への配置」を行っても、現場の保健師が不足することはなくなり、通常の業務執行体制を維持できるようになります。

こうして、保健所という組織が強化され、また職員の人材育成につながり、ひいては不測の事態にも対応できる、強靱な保健所組織を作り出すことができるのです。

保健所の問題点・よくある質問

保健所の問題点と解決策について、よくある質問をまとめてみました。

ここにある問題点は特定の保健所だけ?それとも全国的?

ここに上げたような保健所の問題点は、一部職員のパーソナリティに起因されて引き起こされるものではありません。保健所の「地方公共団体の中に、専門性を持つ職員を集めて作った一部門」という特徴に起因して起こるものです。なので、程度の差こそあれ、全国どこの保健所でも同じ問題が発生しがちですし、実際そのような声はさまざまなところで聞きます。

保健所長が問題なの?中間管理職が問題なの?

保健所長は基本的に医師が就くこととされていますが、この医師は組織マネジメントの経験がないことが多く、行政組織の長として立ち振る舞うには不適なことが多いです。一方、課長などの中間管理職は、保健所など行政組織内でのたたき上げも多いですが、専門職の場合、同様にマネジメント経験が不足したまま役職だけが上がっている場合も多く、同様に適格性が疑われる事例が見られます。なので、「所長も中間管理職も、どっちも問題」が答えになりますね。

将来有望な保健師が専門職場以外への配置を拒むのですが…

まずは、「専門性を活かすためにも、少し現場から離れたところでマネジメントの経験を積むことが重要です」ということをしっかり伝え、理解を得るようにしましょう。もしそれでも頑なに拒むようであれば、いくら保健師として有望でも、公務員としてのは適性はないと言わざるを得ません。マネージャーとしての育成はあきらめ、別の保健師を育成しましょう。

同じような課題は、土木や建築など、他の専門職場でも起こるのでは?

確かに、専門職を抱える他のセクションでも、同じような課題が起こっています。一方、保健所については、医師や保健師・看護師が、高度な専門教育を受けて業務独占資格を取得しているためか、他の専門職場よりも「事務職員への見下し」「専門的業務以外の仕事を避ける」傾向が顕著に出がちです。

総合病院などの大規模医療機関でも、同じようなことが起こるのでは?

大規模医療機関も、病院の経営面や総務面をつかさどる事務職と、医療の現場を担う専門職とが同じ建物内で仕事をするので、一見保健所と同じ課題があるように見えます。しかし、医療機関の場合、事務職と医療職との職域がはっきりと分かれていて、日常業務において相互に交わることがほとんどないので、保健所のような両者の衝突によるトラブルは生じにくいです。

まとめ

以上、今回は、コロナ禍で見えてきた保健所の課題と解決策について、少し批判的に論じさせていただきました。

今回、新型コロナという国難に直面したことで、「保健所」という組織の役割が、多くの人々に認知されたと思います。

しかし、その保健所は、住民の命にかかわる大切な組織であるにもかかわらず、これまで自治体の中ではあまり大切にされてきませんでした。

そしてその結果、組織内はギスギスし、そして本部にも十分に相手をされないような、悲しい状態になってしまったのです。

しかし、今回の新型コロナは、そうした保健所の重要性を、改めてすべての国民に教えてくれました

新型インフルエンザの流行から、約10年を経て流行した、新型コロナ。

ひょっとすると、また10年後には、新しい感染症の流行が来るのかもしれません。

そのときに備え、今回のコロナ禍で明らかになった保健所の課題が少しでも解決し、次の感染症のときに、医療・保健の現場があたふたせず、泰然自若で構えられるようになっていることを、心から願いたいと思います。

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