★この記事で分かること★
- ジャニーズ事務所の性被害問題の概要
- ジャニーズ事務所問題を受けて、児童虐待防止法を改正すべきか
- ジャニーズ事務所問題は、法的にはどのように向き合うべきか
皆さん、こんにちは!けんた@ロスジェネ青春マガジン(@lost_gene_mag)です!
連日、世間をにぎわしているジャニーズ事務所社長の性被害問題。
本件については、ジャニーズ事務所の対応が世間の理解を得られないこと、テレビ等のオールドメディアが踏み込んだ議論を避けており、結果としてネットでの議論が批判的な論調で大盛り上がりに。
そうした中で、今回の件を機に児童虐待防止法を改正し、本件のような事件も児童虐待に含めて措置できるように、といった動きがあります。
本日は、児童相談所の設置運営に関するコンサル経験を有するな私が、ジャニーズ問題と児童虐待防止法の関係について、お話しさせていただこうと思います。
ジャニーズ事務所問題とは
ジャニーズ事務所問題とは、端的に言うと、
ジャニーズ事務所の創設者・社長であるジャニー喜多川氏が、事務所に所属する複数の未成年男子に対して、長年にわたる児童性的虐待を行ってきたという疑惑
のことです。
こうした噂については、かねてから上ってはいたものの、基本的には大きな問題になることはありませんでした。
一度は報じられるが…闇に葬られる
しかしながら、1999年に週刊文春がこの疑惑を報じ、世の中に知らされることになります。
一方、ジャニーズ事務所はこれを名誉棄損で訴えましたが、2004年に出た判決の中で、同氏が行った行為については「真実」との認定がなされました。
「あのジャニーズ事務所の創業者が、未成年の所属タレントに対して性的虐待を行っていた」
これは、あまりにもスキャンダラスな事実です。
しかし、このスキャンダルは、裁判を経て確定したものであるにもかかわらず、テレビはもちろん、新聞でもほとんど報じられることはありませんでした。
こうして、一連の疑惑は闇に葬られ、その後もジャニーズ事務所は隆盛を極めることになります。
その後、2019年、ジャニー喜多川氏は死去。その後もジャニーズ事務所は、芸能界の雄として君臨し続けるのです。
2023年、ついに事実が白日のもとに
しかし、大きく風向きが変わったのが、2023年。
2023年、イギリスのBBCが、ジャニー喜多川氏の性加害を題材にした長編ドキュメンタリーを制作し、放送します。また、かつて本件を報じた週刊文春も、新たな性被害についての情報を相次いで報じます。
さらに、2023年4月、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が、日本外国特派員協会で記者会見。自らがジャニー喜多川氏から性暴力を受けていたことを公表しました。
これを受け、NHKが本件について報じ、これ以降、国内メディアでも、少しずつではありますが、この問題が報じられるようになりました。
しかし一方で、その掘り下げは、内容のインパクトに比して非常に浅く、やはり各メディアがジャニーズ事務所へ忖度しているのではないかとの世論は強まります。
そうした中、2023年5月には、ジャニーズ事務所の現社長である藤島ジュリー景子氏が、公式に本件について説明する動画メッセージを公開しました。
しかし、
- これだけの騒ぎでありながら、記者会見での質疑応答を避け、一方的な録画メッセージを流すにとどめたこと
- かつて裁判にまでなった事案であるにもかかわらず、社長の立場の人間が本件について「知らなかった」と、にわかには信じがたい説明を行ったこと
- 第三者委員会も設置せず、また自身に何らの処分も課さないなど、会社としての姿勢に甘さがみられること
などから、この動画メッセージも大きく炎上してしまいます。
なお、これら一連の動きについては、基本的にオールドメディアでの報道は、全くなされないわけではないとはいえ、非常に弱いものでありました。
そのため、本件については連日ネットで炎上し、なかなか火が消えないような状態に陥っているのです。
児童虐待防止法の改正を求める動き
こうした中、2023年6月、カウアン・オカモト氏をはじめとする元所属タレントたちが、子どもの性被害を防ぐため、児童虐待防止法の改正を求める署名を集め、各政党へ提出しました。
また、同法の改正については、立憲民主党も単独で改正案を提出しています。
これら法改正で求められている内容は、大きく2点です。
- 対象となる行為者の「保護者」から「強い立場にある第三者」へ拡大
- 第三者による虐待を発見した場合の通告義務の創設
これらの法改正を通じて、子どもたちが社会の中で完全に守られるための法整備を求めていく…
それが、今回署名を提出した、元ジャニーズJr.メンバーの思いなのです。
「児童虐待」の定義って?
ここまでの話を聞くと、
というふうな思いになりそうなところです。
しかし、法律というのは、非常に厳格なもの。
こういった情緒的な話だけでなく、理論的な面もしっかり検討がなされなければなりません。
ということで、まずは「児童虐待防止法」についてみていきます。
この児童虐待防止法、正式名称「児童虐待の防止等に関する法律」は、2000年に施行されました。
実はこの法律ができる前は、児童虐待への対応については児童福祉法にその定めがあったのですが、一方で民法が定める親の懲戒権(現在は法改正により削除)との関係もあって、保護者による虐待が顕在化しにくいという問題がありました。
その課題に対応すべく生まれたのが、「児童虐待防止法」。
児童虐待防止法では、児童虐待について、定義づけを行っています。
(児童虐待の定義)
第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
この児童虐待防止法のポイントは、
懲戒権を有する保護者であっても、暴行やわいせつ行為を行えば、それは虐待に該当するということを、法律に位置付けた
こと。
保護者以外の第三者が暴行やわいせつ行為などを行うと、それは単なる犯罪なので、特別な法律を作ったりせずとも、普通に取り締まれるのです。
しかし、保護者がこれを行うと、「民法に基づく懲戒権の行使」みたいな話になってしまって、問題の解決が難しくなる…。
そこで、この法律は、「保護者」が、虐待を行うものでありうることを明確に示した点において、これまでの児童福祉法から一歩踏み込むことに成功しており、画期的だと言えるのです。
ジャニーズ問題は「児童虐待」ではなく「単なる犯罪」
こういった、児童虐待防止法の考え方を踏まえて、今回のジャニーズ問題を考察します。
今回のジャニーズ事務所の一連の問題は、
- 芸能事務所社長という、立場の強い者が、
- その立場の強さを乱用して、
- 立場の弱い者に対して性暴力を働いた
という構図になっています。
今回、ジャニーズJr.の皆さんや、立憲民主党などが求めている児童虐待防止法の改正要望では、こういった
「事務所社長のような、保護者ではない第三者による行為」
も児童虐待に位置付けることを求めているわけなのですが…
先ほどの考察でもその考え方をお示ししましたように、
なのです。
つまり、「児童虐待防止法を改正して、児童虐待として、児童福祉の視点で対応する」のではなく、「刑法を適用して、刑事事件として処理する」ことができ、そしてその方がより重く受け止めることができる、という話になります。
要は、
今回のジャニーズ事務所問題は、刑法の適用により、一般的な犯罪として処理できる
ということなのです。
「法改正見送り」は後ろ向きな対応ではない
こういった考え方のもと、今国会においては、児童虐待防止法の改正は見送られる予定となっています。
ただ、この結果だけを見ると、
などという声が聞こえてきそうですが…
実際はそういうわけではなく、あくまで
というだけの話。
国では、同様の事案の防止策検討や、被害者支援を議論するための検討チームが設けられ、今後、さまざまな政策的アプローチで、ジャニーズ問題に向き合おうとしています。
変な誤解をされたり、「国はジャニーズ問題に後ろ向き」という誤ったメッセージを持って伝わったりしたら、もったいないです。
なので、国においては、ジャニーズ問題に真剣に向き合い、今回の事件がなぜ起こったのか、そしてなぜ深刻化したのか、よく議論して、その考え方を、強いメッセージで、しっかり公表してほしいですね。
まとめ
以上、今回は、ジャニーズ事務所問題について取り上げ、その概要と、児童虐待防止法の改正を求める声についてご紹介し、考察させていただきました。
ジャニーズ事務所問題、長きにわたって明るみにされることがないなど、非常に闇の深い問題だと思います。
それだけに、被害にあわれた方の声をよく聞き、今回、なぜこのようなことが起こったのか、そして今後どうすれば良いのか、しっかり考えなければなりません。
そして、今回の件は政府や国会を巻き込んだ、非常に大きな議論となっており、法律改正の議論も起こりはじめています。
とはいえ、法律改正は「手段」であって「目的」ではありません。
少し情緒的・感情的になってしまう空気はありますが、だからこそ冷静に考えて、「同じ過ちを繰り返さないために、できることは何か」を、多くの人たちと共有し、未来に向けた動きのきっかけを作れれば…と思います。